重要な記事なので、
http://dot.asahi.com/aera/2015121400036.html
http://dot.asahi.com/aera/2015121400037.html
http://dot.asahi.com/aera/2015121400039.html
より、全文を転載
----------------------------------------------------------
反安保法制・反アベノミクスでは ◎、選挙協力は△。
では、将来の連立政権は……。“一強多弱”の勢力図を塗り替えるには野党協力が欠かせない。野党研究が専門の吉田徹・北大教授が、3党首の胸の内を探った。(構成/編集部・宮下直之)
* * *
吉田徹・北海道大学教授:安全保障関連法制反対のデモが大きな注目を集めました。野党に追い風が吹いている。これにどう帆を張り、民意を形にできるか。“一強多弱”の構図のもとで問われているのは野党間の協力です。そこで共産党から出てきたのが、連立政権を前提とした国民連合政府構想でした。
志位和夫・共産党委員長:私たちの提案というのは非常にシンプルでありまして、まず、戦争法・安保関連法制を廃止しよう、そして安倍政権を打倒する戦いを発展させようと呼びかけています。日本の政治に立憲主義と民主主義を取り戻す戦いをやろうじゃないかということです。
戦争法の廃止は、衆参両院で廃止法案を可決すれば可能です。ただそれだけでは問題は解決しない。集団的自衛権の行使を容認した2014年7月の閣議決定が残る。自衛隊の海外派兵の火種が残り、立憲主義を破壊したデタラメな憲法解釈が続くことになる。戦争法の廃止と閣議決定の撤回。二つの仕事をやろうとすれば、どうしてもそれを実行する政府が必要になる。
●立憲主義取り戻す政権
松野頼久・維新の党代表:僕らはいま、民主党の岡田さんのところとですね、まず基本政策を一致させようということで、政調会長同士の協議をさせていただいています。もうほとんど内容は詰まってきているんですけれども。基本政策を詰めることができれば、来年1月の通常国会の前までに統一会派を組み、きちっと一つのかたまりで国会に臨む。なるべく大きなかたまりをつくって、その姿を国民に見ていただく。
いまの選挙制度のなかで一つの政党をつくり、きちっと有権者の声を拾える状態をつくるということが、民主党との間でやっている作業です。岡田さんはその先の新党までは慎重だという報道がされていますけれど、将来の新党を排除しないということは言っていただいている。
志位:野党間には基本政策の違いがあるわけですね。だからといってバラバラのままでは安倍政権が続くことになる。ですから基本政策の違いがあってもそれは横に置いて、戦争法廃止、立憲主義回復の一点で政権を構成する。現在の非常事態を打開するというのは、これ以上ない憲政上の大義ある課題だと考えています。
吉田:共産党は、連合政府では「日米安保条約の廃棄」「自衛隊の解消」など、これまでの方針を凍結すると踏み込みました。
志位:日米安保条約について、私たちは国民多数の合意を得て廃棄するという方針です。ただ、この方針を連合政府に求めることはしない。連合政府としては、安保条約に関わる問題は凍結し、これまでの条約と法律の枠内で行動する。
松野:14年の衆院選でも、岡田さんとはずいぶん選挙区の候補者調整をやって、維新と民主の候補はなるべく1人に絞るという作業をやりました。両党がぶつかった選挙区より状況はよかったと思いますけれども、予想した票よりも半分ぐらいしか乗らなかった。あのとき、共産党はほとんどの選挙区に候補者を立てましたので、相当、共産党の票も伸びたと思います。
今後の国政選挙での協力に関して、僕は志位さんと同じ認識です。ただ、ちょっと失礼なことを言わせていただくと、やっぱり僕たち保守政党にとって共産党は対極の政党ですから、アレルギーがあることは確か。それに基本政策というのは必ず問われるので、そこのところを横に置いてということにはならない。さっきおっしゃった日米安保条約に加えて、消費税もそれぞれが違うスタンスなので、いざ政権を一緒に運営するとなると、足がもつれることは間違いない。ちょっと厳しいかなというふうに僕は思います。
* * *
●連合政府は「キツい」
吉田:岡田さん、民主は共産、維新からラブコールを送られている状況です。どう受け止めますか。
岡田:参院選を含めて、民主党は過去3回の国政選挙で3連敗中なんですけれど、それはなぜかといえば、第三極が出てきて野党が分裂したことも大きい。自民党や公明党の得票数が増えているわけではないんです。野党が分裂することによって小選挙区で勝てない。この状況を変えないといけない。
我々は、国会での統一会派を維新の党に呼びかけているわけですけれども、ぜひですね、国会ではひとかたまりになって、巨大与党に立ち向かっていきたいと思っています。で、志位さんからは、かなり思い切った提案をしていただいたと思います。ただ、やはり国民連合政府は、率直に言ってキツいというふうに……。
吉田:どこが「キツい」のでしょう。
●選挙協力だけでは限界
岡田:政府を構成するということは、国民に対して重い責任を負います。価値観を共にした強い政府でないと、スタートしてすぐに意見の違いが露呈したり、思い切ったことができなかったりする。国民連合政府は、基本的な理念や政策で大きな開きがあり、そのうえで一つのことだけをやるということですが、その間にいろんなことが起き得るわけです。たとえば日本有事や国債市場のクラッシュです。そういうことまできちんと対処できる政府が必要と考えると、民主党と共産党が組むという選択はできないと判断しています。
吉田:現政権の問題は皆さん共有し、何らかの協力が必要だということも理解している。問題はその一歩先に踏み込めないことです。14年の衆院選で、共産党を除く野党間で選挙協力できた小選挙区は194。そのうち与党候補に勝ったのはわずか42。単なる選挙協力では限界があることが露呈しています。
岡田:14年の衆院選で、民主と維新の候補者がバッティングした選挙区で、自民党候補に勝った民主の候補者は2人しかいない。逆に言うと、小選挙区で勝ったほかの候補は、維新と調整ができていた。立候補調整だけでもそれだけの効果がある。
ですから、小選挙区で一番有力な候補者に絞るということが非常に大事になる。次の選挙で徹底的に安倍政権と戦うということであれば、共産党さんにも思い切った決断をしてもらいたい。選挙区のなかで最も有力な候補者は多くの場合、民主や維新の候補であるわけですから、そこに共産党が候補者を立てることがないようにしていただく。私はそれが次の選挙の勝利につながると思います。
志位:選挙協力は、国民的大義を掲げ、どの党にもプラスになるように行ってこそ、自公を倒すことができます。
いま、岡田さんから共産党と政権を組むのは「キツい」というお話がありました。しかし、野党間で政策的違いがあるというリアルな現実から出発して、どうやって安倍政権を倒すかを考える必要がある。政策的違いは互いに認め、留保する。そして、立憲主義の回復という、個々の政策とは次元の違う、より根本の問題で結束する。この大仕事をやりあげたら、ずるずると続けないで解散・総選挙を行い、国民の審判を受けて、次の進路を決めていく。これが一番現実的で合理的ではないか。
それから戦争法廃止以外の問題をどうするか。たとえば、民主党との間で、在日米軍基地問題についての考え方は違う。しかし、沖縄県民があれだけ反対している新基地建設をいまのように力ずくで進めていいかといったらね、これはよくないという点で一致するでしょう。
●“人”への支出は正しい
岡田:そこまではね。
志位:そこまでは一致する。私は、いろんな分野でそういう一致点はつくれると思うんです。だから、そうした政策調整をきちんとやれば、国民に対して責任を負った政権運営ができると考えています。
吉田:安倍政権と比べて、民主党は経済政策で決定打に欠けると思われています。
岡田:民主党の考え方は経済成長と分配の両立です。経済成長が必要ないという立場には立っていない。しかし、安倍政権はそれしかない。成長の果実をいかに公正に分配するか、あるいは厳しい状況の人々の生活を底上げするということが、政治の役割だと考えています。
松野:民主党の議員でない僕が言うのもおかしいと思うんですが、民主党政権が掲げた方向性というのは正しいと思うんです。「コンクリートから人へ」というスローガンには、税金として集めたお金を、どこを出口に財政出動させるかという問題意識があります。現在は人口が増える方向にお金を使わなきゃいけないのに、自民党はいまだに公共事業に使っている。財政支出ないのに、自民党はいまだに公共事業に使っている。財政支出を医療、介護、福祉に振り向けるという方向は正しかった。
●アベノミクスの転換を
岡田:民主党の失敗の原因がどこにあったか。私は、覚悟が足りなかったというふうに思っているんです。最後は党がバラけてしまったんですが、そこもきっちり総括して、同じことはもう二度とありませんということを有権者にわかってもらわなければいけない。私は、民主党が新しい、さらに違う形になっていくなら、総括を含めて過去の失敗を説明する必要があると思います。
* * *
志位:民主党政権のことは言いたいことがいろいろありますが、今日はコメントは控えます。ただ安倍政権の経済政策への批判という点では、共有できる部分があると思うんです。
というのは、アベノミクスの本質はトリクルダウンです。つまり、まず大企業に儲けてもらえば、それがいずれは家計に回ってきますよということです。しかし、14年度から今年度の4~6月期、7~9月期にかけて、GDPがマイナスにもかかわらず、大企業の経常利益は過去最高益なんですよ。これは戦後、一度もなかったことなんです。
松野:企業の内部留保も増えた。
志位:そうです。アベノミクスは、大企業の内部留保を積み増しただけです。その一方で、日本経済全体は低迷が続いている。トリクルダウンが成り立たないということは明瞭になったわけで、ここは政策転換をやる必要がある。具体的には、人間らしい雇用のルールをきちんとつくっていく。これは民主党とも一緒に反対しましたが、労働者派遣法が改悪され、正社員から非正社員への流れが加速している。この流れを逆転させて正社員が当たり前の社会にしていく。それは全体の賃金を押し上げます。最低賃金も思い切って底上げしていく。政治のリーダーシップで、大企業の儲けを社会に還元させていく。アベノミクスを転換するという方向は、話し合えば共有できるんじゃないかと思うんです。
●内部留保に課税せよ
松野:まったく同じ認識です。志位さんはずいぶん柔らかくおっしゃったけれども、僕は法人税減税をするならば、内部留保への課税をセットでやるべきだと考えます。法人税減税で企業の活力は支えるけれども、それは内部留保に回すためじゃなくて、市場に回すためなんだというメッセージを込める。低率でいいので、内部留保に課税するべきというのが僕の持論です。
岡田:経済政策でいえば、個々に一致できるものはあると思う。たとえば、法人税を一律で減税しても投資拡大や賃金アップにつながらないことは、過去の安倍政権の結果から実証済みです。それよりも強力な投資減税を行うべきです。ただし「大企業は悪」みたいなね(笑)、そういう発想はちょっと違って、そこまで言わなくていいじゃないかと思いますが……。
志位:悪と言っているんじゃないですよ。私たちは、大企業をつぶすとか、敵視するということでは毛頭ないんです、岡田さん。その社会的力にふさわしい責任を果たしてくださいというのが、私たちの立場なんです。アベノミクスはあまりに大企業に軸足を置いた政策で、そこを転換して暮らしに軸足を置く。そうした方向性は共有できるんじゃないでしょうか。ただ、消費税増税という問題があります。税制に対する考え方を一致させることは難しい。しかし、まず問われるのは、17年4月に消費税を10%に上げていいかどうか。ここは税制に対する考え方の違いはあっても、いまの経済情勢のもとでは増税しないという方向で話し合う余地があるのではないでしょうか。
吉田:アエラの読者アンケートでは、野党に進めてほしい政策は社会保障が72.9%でトップ。子育て支援、教育と続いて、安全保障は37.3%で4番目だった。安保関連法制には、反対が多数を占めるかもしれない。しかし、貧困が広がっているなかで、国民が政治に求めるのは日々の生活を守ることです。野党が安保関連法制反対で一致できても、その他の身近な政策でまとまれるかが問われている。
●参院選は安保に比重
岡田:そこは痛しかゆしです。安倍政権としては、世論の反対の強い安保関連法制から、ほかの政策に関心を集めたいと思っている。その路線に乗ってしまうことになりかねない。次の国政選挙は参院選で、政権選択選挙じゃない。やっぱり安全保障の比重というのは、かなり高く なると思っています。
志位:経済の問題は大事で、私たちも国民の暮らしを第一に考えた対案を出していこうと思います。しかし、経済の問題と立憲主義の回復という問題は次元が違う。安倍政権の独裁を止めるのは、暮らしにも関わる大問題だということを訴えながら、経済政策の転換も訴えるということになると思います。
岡田:議論をしてきて、政治家同士の信頼関係って非常に重要だと思っています。もちろん、松野さんとは長い間の信頼関係があるわけです。志位さんとは路線はまったく違うんだけれども、政治家として信頼している。そういうなかで、これからいろんな可能性があるんだろうと思っています。
志位:いま、岡田さんから信頼という言葉を聞いて、大変うれしい思いです。岡田さんは、議員として私の1期先輩で、長い付き合いのなかで私も同じような信頼を感じています。お互いに信頼感を大事にしてなんとか一致点を見いだしていきたい。まずは参院選で勝つために、筋が通った形で選挙協力をどうやってやるか、話し合いを続けたいと思っています。
岡田:話し合いを継続していくというのは確認していますね。
松野:共産党という政党と考え方は違いますが、今回初めてじっくり話してみて、志位さんという政治家は魅力的だと感じました。安倍政権によって、憲法という民主主義の土台が崩れるという危機感は一緒です。
志位:その危機感を共有できたのは非常に大事なことですね。
吉田:“一強多弱”の責任は野党にもある。一緒にやることの不自然さを乗り越えることこそ政治ですから、期待しています。